『ハルバは遺跡に足を踏み入れたと思ったら、あっというまに出てきました。 あまりのあっけなさに一同は驚きましたが、ヴァーリはしれっとしています。 きっとものすごいことが起こるだろうと踏んでいたアレスは、なんとなく腑に落ちない様子。』 アレス「意外とあっさりしたもんなんだな、封印の開放ってのは」 ヴァーリ「封印の開放…といっても、厳密には風の扉を開くための手順のひとつにすぎない。     いくつもある鍵を一つ開けたようなものさ」 エイル「西の大陸で初めて封印を解いたときさ、オレもすごいことが起こると思って    ドキドキしてたんだ。そしたら…今日みたいに、何事もなく終わっちゃってさ」 ヴァーリ「なんだ、何か期待してたのか?」 エイル「うーん、ちょっと拍子抜けって感じ」 ヴァーリ「はっはっは、何言ってる」 アレス「でもよ、あんだけ何も起こらないと、封印が解けたのか心配じゃないか?」 ヴァーリ「うん?…心配するな。鍵は確かに開かれた。残る封印は3つだ。     さて…次の封印に向かう前に、ライア殿のお父上に礼を言わねばならないな」 ライア「父上はお会いになられるでしょう。しかし、何も直接会わなくとも、礼なら私がことづかっておきますが…」 ヴァーリ「いや、ぜひともお会いしたい」 『帝都に戻り、宿で一夜明かした一行は、ライアの案内で大神官に会いに行きました。  ヴァーリは礼を言う以外にも、大神官に会いたい理由があるようです。  一行はラシャンナ正教会の神殿にやってきました。歴史の重みを感じさせる  大理石でできた神殿は、周囲の建物とそこに住む人々を静かに見守るように、  おごそかにたたずんでいます。』 大神官「よくぞ参られた、風の旅人ヴァーリよ。お会いできて光栄じゃ」 ヴァーリ「こちらこそ。この度の助力、感謝致します」 大神官「礼には及ばぬ。先の大戦以来、この大陸では血と鉄の時代が続いておる。     そなたらがこの戦乱の世を終わらせてくれることを期待しよう」 エイル「ねー、先の大戦ってなに?蛮族以外の敵とも戦ってたの?」 ライア「3年ほど前まで、ラシャンナはペルソス王国という大国と戦っていたのです。    あるときそのペルソスで内部分裂が起き、おかげで戦争は終わったのですが…」 アレス「その時のペルソス軍の残党がバラバラになって、それぞれの勢力が各地の蛮族を支配しちまったんだ。    そいつらが今同盟を結んで、ラシャンナに襲いかかってきてるわけさ」 エイル「つまり…蛮族って言っても、指揮してるのはそのペルソス王国の生き残りなんだ」 ライア「そうです。アレスと私は、その時の戦友なのですよ。アレスは副司令官で、私はその補佐官でした。    軍が再編成され、我々が戦線に出ることは無くなりましたが」 大神官「左様。風の扉が開かれれば、地上の魔は吹き払われるという。     もはや…人の力での平和は不可能としか思えぬ今、その伝説にすがるしかない」 『その時、兵隊の荒々しい足音をいくつも引き連れて、大柄な男が入ってきました。  軽装の鎧からは浅黒い肌がのぞき、引き締まった体は野生の獣を思わせます。  男は傲慢に言い放ちました。』 ハルバ「これはこれは、ついに風の旅人がお目見えか。    さぞや嬉しかろうな、大神官殿」 大神官「ハルバ!このような場所に何の用だ?断りもなく、     それも兵を率いて教会に足を踏み入れるとは」 ハルバ「皇帝の息子が入れぬ場所がこのラシャンナにあるというのか?」 大神官「むう…」 エイル「あいつがハルバかぁ。アレスが言ってた戦争バカのボンクラ皇子でしょ」 ヴァーリ「言いすぎだぞ。と言っても、奴にお前の姿は見えまいがな」 エイル「うん、邪悪な気が漂ってるもん」 ハルバ「誰と話している、旅人よ?」 ヴァーリ「独り言だよ。それより、なぜここに?」 ハルバ「お前に用があるのだ。私と一緒に皇帝陛下のもとへ来てもらう」 ライア「ハルバ、勝手な真似は許しませんよ。彼はラシャンナ正教会の客人です!」 ハルバ「この国に足を踏み入れたからには、誰であろうとその身の自由は皇帝陛下の御意志ひとつ。    陛下は風の旅人と話をすることを望まれている。拒むことはできんぞ」 ライア「話ですか。風の扉が力をもたらすものであればそれを手に入れ、それをもってラシャンナの権力を    一手に握ろうという魂胆でしょう?」 アレス「本当に皇帝の意志かどうかも怪しいもんだ。ハルバ、てめえの独断じゃねーのか?    伝説の力を手に入れて、自分が実権を握ろうって腹だろう!」 ハルバ「誰に向かって話しているつもりだ?貴様らを今すぐ牢にぶち込むこともできるのだぞ!    …だが、今はそのために来たのではない。さあ旅人よ、一緒に来てもらおう。    大神官殿、文句はなかろうな?」 大神官「すまぬ…ヴァーリ殿」 アレス「くっ…すまねえ旦那。さすがに皇子には手を出せねえ…」 ヴァーリ「心配はいらない、すぐに戻る。昨夜の宿で落ち合おう」 ライア「しかし…」 ハルバ「物分かりがいいな、旅人。はっはっはっはっは!」