名前の後についているMはモノローグのMです 始まりは魔女 シーン1 二人の旅/街の景色 [エトM/001]「宿屋の窓から外を覗けば、遙か遠い地平線までを望むことの出来る絶景が広がっている。       ここは、国の東端。ヘィゲル山の中腹にある"見下し街"(みくだしがい)」 [エトM/002]「街は恒例の祭りに向けて浮かれ気分な調子に浸っていて、通りなんかは装飾で溢れている。       そんな街がどうして見下し街、なんて名前が付いているかと言えば、どうも昔の人たちはユーモアセンスに溢れていたようで、   絶景を望むことの出来るこの街を見下し、山麓にある街を"見上げ街"(みあげのまち)と呼ぶようになったらしい。   ちなみに、見上げ街と見下し街はロープウェーで繋がれていて、交通の便はそんなに悪くない」 [ユーリィ/001]「にしても、見下しなんて変な名前だよな」 [エト/003]「改名すればいいのにね」 [ユーリィ/002]「流石にそれは……伝統とか色々あるんだろ」 [エト/004]「そうなのかなぁ」 [エトM/005]「ちなみに、こいつの名前はユーリィ。苗字は知らない。覚えてない。この旅を始めた頃から一緒にいる、自称僕の大親友だ。   何処か良いとこのお坊ちゃんらしく、すごく金持ち」 [エトM/006]「そんな彼とどうしてこの村に来ているのかと言えば、さっきも言った祭りも目的の一つだ。   お祭りは毎年の五月頃に行われる、御霊祭みたいなもので国のガイドブックに載っている有名なものだ。   当日はどんちゃん騒ぎして上下の関係なく、悪戯しあったりするとても愉快なものらしい」 [エトM/007]「ちなみに、その祭りは、明日に迫っていた」 [ユーリィ/003]「そういうもんだろ。案外重要なもんだよ、伝統ってのはさ」 [エト/008]「そういうの、僕はよくわからないな」 [ユーリィ/004]「(吐息)、ま、これからわかっていけばいいさ。……それで、どうだよ、調子の方は」 [エト/009]「全然、かな。祭りの準備期間も含めて色々街を廻ったけど、ピンとくるものはないね」 [ユーリィ/005]「そうか。んー、ここじゃないのか?」 [エト/010]「どうだろう……? ない、わけじゃないとは思うんだけど」 [ユーリィ/006]「イマイチピンとこねぇか……やっぱ日付とかも関係してくるのか?」 [エト/011]「さぁ、それはわからないな。まぁ時間は幸いいっぱいあるんだし、待ってみて駄目なら次にいけばいいじゃない」 [ユーリィ/007]「まぁ、そうなんだけどなぁ。ここまで当たりが一個もないから、そろそろ当たって欲しいんだよ」 [エト/012]「そんなこといっても、こればっかりは地道に探すしかないんじゃないの?」 [ユーリィ/008]「お前は自分のことなのに他人事みたいに言うな……」 [エト/013]「だって、仕方ないじゃない。それにほら、教会の人は言うよ? 全ては神の思し召しって」 [ユーリィ/009]「糞けったいな神さまの思いのままってか……ま、待つしかないか」 [エトM/014]「僕らがここに来たのは、祭りだけが目的じゃない。本来の目的は一つ。僕の心を探すこと」 [エトM/015]「なんでも、僕は以前全く違った性格をしていたらしい。   違う性格をして、違う生活をしていた。なのに、ある日心が砕かれてしまったらしい」 [エトM/016]「伝聞だから、どうしてそうなったのかとか、詳しいことは知らない。   けれど、事実として僕の心は砕かれて、国中に散らばってしまった。僕らの旅の目的はそれを再度集め直して、元に戻すこと」 [エトM/017]「全ての欠片を集める。それがなったとき、どうなるのかまではわからない。   本当に元に戻るのかすらもわかっていない。けれど、それでも僕の縁者達はその可能性に賭けた」 [エトM/018]「僕自身としては気が付いたら旅をしていたから、その理由が本当なのかどうかはまったくわからない。   でも、実際ユーリィに訊けばそういう答えが返ってくるし、僕としても何かを集めないといけないという使命感みたいなものが常にある」 [エトM/019]「それに、これは今回初めての経験だけど、どうも欠片に近づくと僕は反応を示すみたいで、   この街に来てからこっち、ずぅっとデジャヴしている。まるで見知った街であるかのように、行く先行く先を知って居るんだ」 [エトM/020]「だから、この街にあるのは間違いないはずなんだ。でも、その場所がわからない。   もしかしたら、時間が必要なのかも知れないからということで、僕らは今待っている」 [ユーリィ/010]「それじゃ、俺はちょっと外に出てくるよ。せっかくの祭りだ……女漁りしないとな」 [エト/021]「ユーリィはそればっかりだね。なに、口から産まれてきたの?」 [ユーリィ/011]「可愛い女の子が居たら口説かないと失礼だろ。神は言っている、俺は女を口説くべきだと……」 [エト/022]「バカ言ってないでさっさと行ったら」 [ユーリィ/012]「おう。そんじゃまぁ、適当に情報収集しつつ戻ってくるわ。お前も出かけるならあんまり遅くならないようにしろよ」  扉が閉まる [エト/023]「帰りが糞遅い君に言われてもなぁ」 シーン2 探索 [ユーリィ/013]「(吐息)……相変わらず淡泊ですこと。もうちょっとこう、嫉妬とかしてくれると嬉しいんだけどな。     さーって情報収集っと……今日はどの辺りの子を狙おうかな」 [ナレ/001]「ユーリィは夕暮れに沈む街を見渡して、行く先を検討する。   今日までの間に大半のブロックは制覇していたから、残りのブロックを当たるだけなのだが、そのどれに行くかが悩み所であった」 [ユーリィ/014]「……そうだな、こっちにしよう」 [ナレ/002]「ユーリィが選んだのは、街の北方。   山頂側に向かって歩く方のブロックであり、そちらの方には街に来た当初から気になっていた、ぽつんと立つ一つの家があるのだった」 ガヤ [ユーリィM/015]「……この辺りに来るのも久しぶりか。前来たのはいつだっけ?     たしか、あの頃はまだエトワールも足が弱くて、坂道だらけのこの街の見物には、彼女は不満たらたらだったような気がする」 [ユーリィ/016]「また、あいつと来たいな……いや、来るんだ。その為のこの旅だろ」 [ナレ/003]「決心密かに、ユーリィは祭りを前に浮かれきった町中を抜けて、北ブロックに到達した。   高低差の関係上、街全体を見下ろして眺めることが出来るようになるこの位置は、しかし、さらに上がある」 [ユーリィ/017]「あの家……いったい何なんだろう? 町長の家、とかかね……ん〜〜」 [ナレ/004]「ユーリィはあたりをきょろきょろと見回し、情報を持っていそうな耳聡い、それでいて綺麗な女の子を捜す。   辺りには祭りの準備のために人がたくさんいたので、そういう子を見つけるのにはそう時間も必要ではなかった」 [ユーリィ/018]「あの子にしよう……よし、手が空いた。あのすいません。ちょっと良いですか?」 [美人/001]「んん? なにかようかしら?」 [ナレ/005]「ユーリィが声を掛けたのは、田舎独特の純朴そうな雰囲気の美人だった。   若すぎず、けれど、老いすぎても居ない。たぶん、こういった地方ではそろそろ結婚適齢期であろう女性だ。」 [ユーリィ/019]「そうそう、そうです。草原に咲く一輪の花のような貴女。貴女に用があるんですよ。ちょっとその辺りでお茶でもどうですか?」 [美人/002]「でも、アタシ、お使いの途中で……」 [ユーリィ/020]「大丈夫だよ。そんなに時間は取らせませんから。それに、ほら、貴女下から登ってきたんでしょ。喉渇いたんじゃないかな」 [美人/003]「確かに、そうだけど……」 [ナレ/006]「美人は尚も迷っている様子だったが、にっこりと優しく微笑むユーリィにやがて根負けしたのだろう。ゆっくりと頷いて、近くの茶屋に腰を下ろした」 [ユーリィ/021]「なんでも好きなのを頼むと良いよ。俺が幾らでも奢っちゃう」 [美人/004]「ホントに? えっと、それじゃ……」 [ナレ/007]「美人が茶を選び始め、真剣にメニューと向き合う中、少しの隙を見計らってユーリィは切り出した」 [ユーリィ/022]「ちょっと訊きたいことがあるんだ」 [美人/005]「何でも訊いて。うん、知ってることなら答えるから」 [ナレ/008]「その頼もしい答えにユーリィは笑みを深めた。   だが、最初から目的の質問はせず、祭りの目玉とか、美人がどんな事に関わっているかを聞き出す。   それらが一通り済んで、口が緩んできたところで、ユーリィは切り出した」 [ユーリィ/023]「あの上にある家って誰の家なんだい」 [美人/006]「あー、うん、あれはね。魔女が住んでるんだって」 [ユーリィ/024]「魔女?」 [美人/007]「うん。毎年祭りになると降りてきて、色々と披露してくれるけど、それ以外は何してるかわかんない。   ずいぶん昔から住んでるらしい、綺麗な人だよ。たぶん、今年も祭りの日になったら出てくると思うけど」 [ユーリィ/025]「そっか。なるほどね……うん、ありがとう。助かったよ」 [美人/008]「どーいたしまして。うん、お茶も美味しかったし、これぐらいならお安いご用だったかな」 [ユーリィ/026]「こっちも君みたいな子と話せて良かったよ。それじゃ、設営がんばってね」 [美人/009]「はーい。じゃあねー」 [ユーリィ/027]「山の上に住む魔女、か。こりゃまたオカルトじみてきたな。……いや、今更か」 シーン3 祭り/魔女の叫び [ユーリィ/028]「ただいまマイハニー。良い子にしてたかなー?」 [エト/024]「それで、有用な情報は見つかった?」 [ユーリィ/029]「超美人と連絡先交換したわ」 [エト/025]「……」 [ユーリィ/030]「冗談だよ……そんな怖い目で見るなって。たぶん、こいつが何か知ってるんじゃないかって目星はついたぞ」 [エト/026]「本当に?」 [ユーリィ/031]「本当だよ。確かめては来なかったけどな。なんでも、この街には魔女が住んでるらしい」 [エト/027]「へぇ、オカルトじみてるね。ただの俗称ってのもあるけど」 [ユーリィ/032]「どっちかは明日次第だな。仮に偽物だとしても、一見の価値はあるだろうさ。なにせ魔女だからな、どんなものを見せてくれるか楽しみだ」 [エト/028]「それで、その人がどうかしたの?」 [ユーリィ/033]「ああ、そうそう。それで、そいつが住んでるところまでは行ったことがないだろ?」 [エト/029]「……そもそもどこに住んでるのさ」 [ユーリィ/034]「あの街の上の方にある一軒家だ。不思議と行く気にはならないよな」 [エト/030]「……そういえば、そうだね。あんなに目立つのに。これも魔女の力って奴なのかな?」 [ユーリィ/035]「かもな。ますますオカルトじみてきたが、まぁ、ともかく明日だ」 [エト/031]「そうだね。明日だめなら、もうここは引き払おう」 [ユーリィ/036]「だな。それじゃ、明日に備えて今日は早く寝ましょう! いいでちゅかー」 [エト/032]「くたばれ」 [ナレ/009]「そして、翌日」 [ナレ/010]「街は前日よりも輪を掛けて浮かれ気分が増していた。   街の方々ではこの日のために作られたのであろうオブジェが所狭しと飾られ、街灯には専用のカバーが掛けられていた。   もちろん、それだけではない。方々の店店は路上に出店を出し、様々な客を呼び込んでいる」 [ナレ/011]「そんな街の中を、エトとユーリィは歩いていた」 [エト/033]「あ、あれなにかな」 [ユーリィ/037]「ありゃ、ただの串焼きだろ。喰いたいのか」 [エト/034]「せっかくの祭りだし、楽しまなきゃ損じゃん」 [ユーリィ/038]「さっきからお前そういって幾つ買ったよ……俺の財布は閑古鳥だ」 [ナレ/012]「果たして目的を覚えているのか、エトは出くわす店の殆どに興味を示しては購入するを繰り返していた。   だいたい、経験があるだろうが祭りの食い物とか催し物というのは微妙に高い。   それら全てを支払うユーリィの財布は、どんどん薄くなっていっていた」 [ナレ/013]「まぁ、それでもなんだかんだでキチンと支払うのだから、それなりにユーリィも楽しんでいるのは確かであった」 [エト/035]「ユーリィこっちこっち! なんかやってる!」 [ユーリィ/039]「はいはい。行きますよ。まったく、こういうところばっかり元のままだな」 [エト/036]「何か言った?」 [ユーリィ/040]「なんでもないよ。おお、ありゃすげぇ! ボールの上でダンスだと……ありえん」 [ナレ/014]「結局午前午後は殆ど祭りを楽しむだけで時間を潰すことになった。   なぜなら目的の魔女とやらが一向に姿を現さなかったからである。   訝しんだユーリィが思い切って人に訊いてみたところ、魔女の出番は夜からのようだった」 [ユーリィ/041]「これなら、夜まで宿で休んでおくんだったな……財布が」 [ナレ/015]「後悔先に立たず。後の祭りである」 シーン4 魔女の叛乱 [ナレ/016]「夜。専用に作られた街灯カバーの中から、明かりが漏れ始め、街全体が幻想的な雰囲気に包まれ始める頃。   街の頂上、その家から真っ黒なドレスを纏って魔女はようやく姿を現した。   姿だけを見るならば、そう不可思議な人ではない。顔の作りも体型も、この街の人々とそう大差はない。   だが、細々した装飾品が違った。髪の毛は何かの貝殻のようなもので纏め上げてあり、手にはこれまたホラ貝のような、細長い、杖のようにも見える貝を手にしていた」 [ユーリィ/042]「すっげぇ、美人……」 [エト/037]「ほんと。ユーリィが好きそうだね」 [ユーリィ/043]「そうだな。でもまぁ、ちょっとキツすぎて俺はいいかな……。うん、もうちょっと柔らかい方が良い」 [エト/038]「ふーん」 [ナレ/017]「魔女はゆっくりと道を歩いて、やがて街の中央広場に辿り着く。   街長や組合長などが待つその場所で、少し高い演台に登った魔女は杖を高々と掲げ、宣言をする。   しかし、ユーリィたちの位置では遠すぎてよく聞き取ることが出来ない」 [ユーリィ/044]「一体なんて言ってるんだ?」 [エト/039]「さぁ?」 [ユーリィ/045]「お、何か始まるみたいだぞ?」 [ナレ/018]「魔女が杖を高々と掲げる。それは法王などがやる開会の文句に似ていて、酷く様になっていた。ただ、エトは一人、その姿に酷い不安を覚えていた」 [エトM/040]「どうして不安なのかはわからない。魔女本人は畏まった表情をしていて、何もおかしなところはないっていうのに」 [魔女/001]「祭りを始めましょう」 [ナレ/019]「魔女が杖を揮う。まるで、魔法みたいに空中に薄氷が生じた。群衆が、歓声に沸く。きっと、それは毎年恒例の何かであるはずだった。そう、去年までは」 [エトM/041]「どくん、と心臓が脈打った。まるで、全身が心臓になったかのような巨大な一打ちだった」 [エト/042]「あの人だ……あの人だよ!」 [ユーリィ/046]「なにがだ?」 [エト/043]「ぼくの、欠片を持ってる。だめだ、やめさせないと……あの人はきっと」 [ナレ/020]「エトが歩み出そうとした瞬間、世界が凍り付いた。魔女が笑みを深めるや、薄氷が臨席していた街長や組合長を滅多刺しにしたのだ」 [ユーリィ/047]「おい、なんだよあれ」 [ナレ/021]「突き刺さった氷はやがて弾け、抜けた穴からは血が噴出する。被害者達は一撃の下に絶命していた」 [群衆]「わあああああああああああ!!」 [ナレ/022]「パニックが巻き起こる。皆、やたら滅多らに逃げようとして、かえって逃げることが出来なくなっている。   そして、ユーリィやエトも、それに流されそうになっていた」 [ユーリィ/048]「エト! こっちこい!」 [エト/044]「う、うん……」 [ナレ/023]「二人は、近くの路地に身を潜め、いったんは状況を把握することに務めようとしていた」 [ユーリィ/049]「ったく、どうなっていやがる。魔女が出てきたと思ったら魔法を使って大虐殺だと? 三級の演劇でも使わない筋書きだぞ!」 [エト/045]「たぶん、僕の欠片のせいだ」 [ユーリィ/050]「どうしてんなことが言える」 [エト/046]「わからないけど……わからないけど、そうなんだと思う!」 [ユーリィ/051]「それじゃあ、なにか、取り戻せば元に戻るのか?」 [エト/047]「……たぶん」 [ユーリィ/052]「なるほどな……」 [ナレ/024]「広場では逃げ遅れた人々が徐々に魔女の餌食になり始めていた。薄氷によって身体をかち割られ、凍らされ、砕かれ、死んでいく」 [ユーリィ/053]「あれの相手すんのか」 [エト/048]「どっちにしろ、しないと生き残れないと思う。警察は役にたたないよ」 [ユーリィ/054]「だろうな。こんな状況じゃ、動くに動けない。それに、あんなの相手の訓練なんざ、してないだろ……」 [エト/049]「でも……」 [ユーリィ/055]「それでもやるってんだろ。わかってるよ……! くっそ……バリツがこんなところで役にたつとはなッ!」 [ナレ/025]「ユーリィは、人波で溢れる道に飛び出した。ぎゅっと、手にしたステッキを眼前に掲げる」 [ユーリィ/056]「――あいつの足止めは任せろ。その間に、お前はなんとかして引き剥がす方法を考えろ」 [エト/050]「わかった」 [ナレ/026]「会話はそれだけ。ユーリィは躊躇なく、魔女の眼前に飛び込んでいく」 [ナレ/027]「広場では吹雪が吹き荒れ始めんとしていた。温度は急激に下がり、先ほどの薄氷の嵐を乗り切った人々を容赦なく殺していく。   そんな中、ステッキを構えたユーリィは、一歩一歩魔女に近づいていく」 [ユーリィ/057]「アンタみたいな美人さんが、どうしてこんな事したのかはわからないし、しらねぇが、俺たちの目的のために、しばらくおとなしくしてもらおうか!」 [ナレ/028]「魔女の赤い眼がユーリィを捉えた。今まさに、打ち込まんとしていたユーリィ目がけ薄氷が飛ぶ。   しかし、それを強靱なステッキで打ち砕いたユーリィは独特のステップを踏みながら、一歩一歩魔女との距離を詰めていく。   どうしてか、死なない青年の登場に魔女は困惑した」 [魔女/002]「どうして?」 [ユーリィ/058]「アンタが持ってるものが必要なんだ。だから渡して貰う。方法はわからないから、力づくでだ!」 [魔女/003]「なら、あなたは私の邪魔をするのね。怒りを晴らすこの行為の。ならば、死になさい。氷の海で、女王の腕に抱かれて凍てつきなさい」 [ユーリィ/059]「やらせるかよ!」 [ナレ/029]「吹雪は着実に強くなっていた。その寒さは、瞬く間にユーリィの体力を奪っていく。   なにせ、今の季節は春だ。吹雪に耐えられるような格好などしてはいない」 [ユーリィ/060]「くそっが! でも、寒いくらいどうってことないね。もっと狙ってこいよ!」 [ナレ/030]「そんな中でも、ユーリィは着実に進む。そして、それを阻まんと、魔女は幾つも薄氷を生み出しては攻撃していく。   だが、それら全てがユーリィの格闘術によって防がれてしまう」 [ナレ/031]「バリツ。かの有名な英国探偵も修めていたと言われる、特殊な格闘術。   無論、それだけで彼が生き残っているわけではないのだが……。果たして魔女に見えているのだろうか。薄氷を切り落とす、黒の剣が」 [魔女/004]「何故、どうして死なないの? おかしいわ、あなた」 [ユーリィ/061]「自分一人だけが魔法を使えるとは思わないことだ」 [ナレ/032]「低く、言い放つユーリィの眼を見た魔女は激しく狼狽する。その眼は魔女と同様、赤に染まっていた」 [魔女/005]「あなた……まさか……いいえ、ありえないわ。なら、これならどう?」 [ナレ/033]「魔女が杖を揮う。一拍の後、大地が凍り付いた。厭らしく僅かに表面の溶けたそれは非常によく滑る」 [ユーリィ/062]「バリツにはな。独特の歩法ってのがあるんだよ……中にはな、こういう悪路でも戦えるような、ものも、な!」 [魔女/006]「そんな……」 [ナレ/034]「魔女の眼に恐慌が見える。なにせ、突然現れた闖入者は攻撃にも死なず、吹雪を恐れず、悪路で転倒しないのだから。   そうして、やがてユーリィが眼前近づく。ステッキを揮えば届きそうな距離だ」 [魔女/007]「まだよ、まだ、負けはしないわ」 [ユーリィ/063]「俺としては早々に降参してくれるとありがたいんだけどね? 美人には手を上げたくないし」 [魔女/008]「甘い、甘いわ。甘ちゃんみたいね。うふふふふふ」 [ユーリィ/064](にしても、寒い……エトはまだか……) シーン5 反撃!/追憶の始まり [エトM/051]「(どのタイミングで出よう)」 [ナレ/035]「起死回生を狙うエトはタイミングを計り続けていた。   ユーリィの奮闘のおかげもあってか、周囲の人波も大体は落ち着いてきて、そろそろ飛び出してもエトの体格で流されることはない」 [エトM/052]「(でも、どうすれば奪えるんだろう? 殴りかかる? 掴みかかればいい? ……わからないでも、これ以上はユーリィがヤバイかも)」 [ナレ/036]「魔女と打ち合うユーリィにも、疲労の色が見えてきた。当然だろう、極寒の中での打ち合いなのだ、体力は倍々に減る」 [エト/053]「……よし、行くぞ」 [ナレ/037]「そして、エトも飛び出した。つるつる滑る悪路の上を、上手いこと滑りながら魔女の位置目がけ走っていく。   これには、魔女も驚いた。新たな闖入者の姿に目を丸くし、攻撃の手が緩む」 [ユーリィ/065]「貰った!」 [ナレ/038]「その隙を逃すユーリィではない。強烈な打ち込みを放ち、魔女の手から杖をもぎ取った。途端、吹雪は止み、魔女は杖を打たれた衝撃で倒れ込む」 [エト/054]「大丈夫?」 [ユーリィ/066]「なんとかな」 [エト/055]「そう。…………あなたは、どうしてこんなことを」 [エトM/056]「一歩踏み込むたび、心臓の高鳴りが増していく。もうずっと、気持ち悪くなるくらい鼓動がしていた」 [魔女/009]「全てが憎く見えるの。どうしてかしら。数ヶ月前からそうなの。ずっとずっと、壊したくって仕方がなかった」 [エト/057]「……それはきっと僕のせいだ」 [魔女/010]「坊やの? ふふ、変なことをいうのね。感情は自分が発するものなのに」 [エト/058]「ううん、きっと、あなたのそれに作用する僕の欠片があるからなんだよ」 [魔女/011]「欠片?」 [エト/059]「……うん。だから、それを返してくれれば、きっと」 [魔女/012]「そう。そうなの……わかったわ。もっていきなさい」 [エト/060]「ありがとう」 [ナレ/039]「しゅん、とうなだれた魔女に手を伸ばす。エトが触れた場所から光が溢れて、魔女の体内から何かがエトの体内へと移っていく」 [エトM/061]「強烈な感覚だった。熱いような痛いような、そんな感覚が指先から全身へと廻っていく。僕は思わず吐息を零して、しまう。堪えようにも堪えきれない」 [エト/062]「ふぁ……ああ、あああああ。ああああああああ!!」 [エトM/063]「頭の中に何かが溢れていく。膨大な記憶が、紐解かれるように溢れていく。小さな少女と、少年の記憶が――」 [少女/001]「うふふふふ、楽しかったね――」 [少年/001]「そうだな。また来たいな」 [少女/002]「うん! これなら七つ星かも」 [少年/002]「七つ星?」 [少女/003]「そう、ほら一緒にガイドブック作ったでしょ、あれの等級で、七個だけのすっごい名所に付けてるの」 [少年/003]「ああ、なるほど。それで七つ星か……」 [少女/004]「うん。それぐらい楽しかったんだもん!」 [少年/004]「なるほどなるほど。他にはどこが七つ星なんだ?」 [少女/005]「うん、候補はあるんだけどね……えっと――」 [エト/064]「君たちは誰。どうしてそんな楽しそうに笑っているの?」 [ユーリィ/067]「エト……」 [魔女/013]「……! 駄目!」 [エト/065]「えっ……?」 (SE:銃撃複数 [エト/066]「突然のことで、何が起こったのかわからなかった。いきなり魔女さんに抱きしめられたと思ったら、次の瞬間、熱いものが全身に降りかかっていた」 [ユーリィ/068]「エト! 魔女さん! おい、誰だ撃った奴は!」 [ナレ/040]「全てが丸く収まろうとしていた場を破壊したのは、誰かが撃った銃弾だった。   魔女の身体を貫いたそれは、しかし、エトには何故か当たることなく、辺りに散らばった」 [エト/067]「魔女さん……魔女さん!」 [魔女/014]「かは……く……。これは、駄目ね。急所、撃たれちゃったな」 [ユーリィ/069]「おい、誰か医者を! おい!」 [ナレ/041]「ユーリィの呼び声には誰も答えない。なぜなら、魔女は街人を虐殺した悪人であるから」 [エト/068]「どうして、どうしてこんな」 [魔女/015]「仕方ないわ。私はそれだけの事をしたから……正しい対応よ。誰も間違っては居ない」 (魔女、身を捩る) [魔女/016]「ねぇ、あなた。名前なんていうのかしら」 [エト/069]「僕? ぼ、僕はエトだよ。魔女さんは」 [魔女/017]「私、わたしは、クリスティナ」 [エト/070]「クリス……ティナ」 [魔女/018]「ねぇ、エト。あなたは、きっと大変な星の元に産まれたのね。見えるわ、わたしには、あなたの苦労する道が……   げほっ……だから、せめて、わたしにそれのお手伝いをさせてほしいの」 [エト/071]「いいよ、いくらでもしていいよ。だから」 [魔女/019]「ありがとう。これで、安心だわ……」 [ユーリィ/070]「クリスティナ……」 [魔女/020]「そっちの坊やも。これから大変だろうけど、わたしが少しだけ力を貸すから、安心して」 [ユーリィ/071]「……ありがとう」 [魔女/021]「それじゃ……少しだけ、眠るわ。また、あとで、あい……ましょ……」 [エト/072]「クリス……? クリス、クリス!」 [ナレ/042]「そうして、魔女は死んだ。死が確認されるや、隠れていた警官隊が現れ、エトとユーリィを死体から引き離す」 [エト/073]「クリス、クリス、クリスゥ!」 [ユーリィ/072]「……行くぞ。あれには、もう意味がない」 [エト/074]「ユーリィ? 何をいってるの?」 [ユーリィ/073]「あとでわかる。……俺たちには先があるんだ。ここで時間を食うわけにはいかない」 [エト/075]「薄情者……」 [ユーリィ/074]「それでいいさ。宿に戻るぞ。……そういうわけですから、いいですか?」 [ナレ/043]「頷いた警官隊を確認して、二人は宿へと戻った」 シーン6 新しい道連れ/密談 [ナレ/044]「その日の深夜。エトとユーリィの部屋に来訪者があった。それは、死んだはずのクリスティナ。うっすらと透き通ってはいるものの、確かにそこに」 [エト/076]「クリス……?」 [魔女/022]「ええ、そうよ。さっき言ったでしょう。またあとでって」 [ユーリィ/075]「取り憑いたんだな」 [魔女/023]「坊やは物わかりが良いみたいね。まるで、そういう方法を試したことがあるみたい」 [ユーリィ/076]「…………」 [エト/077]「でも、よかった。それなら、これから一緒って事?」 [魔女/024]「ええ……といっても、あなたが欠片を見つけきるまでの間のことだけど」 [エト/078]「そっか……そっか! よかった」 [魔女/025]「それに、そんなにお手伝いは出来ないわ。一応死人ですから、あんまり動き回ると怒られちゃうの」 [エト/079]「それでもいいよ。すごく嬉しい。それじゃ、ユーリィ。クリスに説明してよ」 [ユーリィ/077]「了解。次の目的地も含めて、色々説明するよ」 [魔女/026]「わかったわ。これからよろしくね」 [エト/080]「うん」ユーリィ「ああ」 [ユーリィ/078]「エトは?」 [魔女/027]「眠ったわ。私の欠片を吸って疲れたんでしょうね」 [ユーリィ/079]「なるほど、な」 [魔女/028]「あなたも、疲れているでしょう。眠らなくて良いの?」 [ユーリィ/080]「いい男は夜更かしするもんだよ。それに、大立ち回りしたせいで、警官に目付けられてるんだ」 [魔女/029]「そうなの。大変ね……あの子のこと、最終的にどうするの」 [ユーリィ/081]「そこまで読みとってるのか?」 [魔女/030]「さぁ、どうでしょう」 [ユーリィ/082]「……最後どうするかは、これから次第だ。すべてが上手くいけばよし、悪くいけば、また繰り返す。それだけだ」 [魔女/031]「時間があるのね。羨ましいわ」 [ユーリィ/083]「これから無限の時間があるあんたほどじゃないよ。俺たち生者は命って言うタイムリミットがある」 [魔女/032]「それでも、生きている間の殆どをその事に費やせるなら、それは、殆ど無限の時間があるのに等しくないかしら」 [ユーリィ/084]「そう、かね……ともかく、これで一つだ。これで、あいつも感覚がわかって、見つけやすくなっただろう」 [魔女/033]「さぁ、どうかしら。全部見つけるのは難航するわよ」 [ユーリィ/085]「あんたの見立てじゃどれぐらいだ」 [魔女/034]「最低でも一年。巡りが悪ければ五年」 [ユーリィ/086]「易いほうだ。そうか、一年か」 風が吹き抜ける [ユーリィ/087]「これから、アンタの力を借りることが何度かあるだろう。世話になるよ」 [魔女/035]「いいのよ。好きでやることだから。それじゃ、あなたも早く寝なさいよ。おやすみなさい」 [ユーリィ/088]「奇怪な奴。ま、これで駒が増えたのはいいことかな。……さて、次は何処に行こうか」 [ナレ/045]「ユーリィは古ぼけたガイドブックを開く。手作りのそれはユーリィの名前と、とある少女の名前が刻まれていた」 [ユーリィ/089]「エトワール。お前と決めた七つ星は、これで一つだ」 シーン7 エピローグ [ナレ/046]「翌日早朝。早々に宿を引き払った二人は、ロープウェーの中にあった」 [エト/081]「色々あったね」 [ユーリィ/090]「そうだな。だが、次も色々あるだろうさ」 [エト/082]「次は何処に行くの?」 [ユーリィ/091]「とりあえずは近くの名所を廻る感じさ。また汽車の旅だよ」 [エト/083]「汽車はあんまり好きじゃないんだけどな」 [ユーリィ/092]「仕方ないさ。徒歩で廻るにはこの国はちょっと広すぎるからな」 [エト/084]「馬車の旅っていうのも、悪くないと思うけどなぁ」 [ユーリィ/093]「馬車は馬車で尻が痛いぞ? ま、そういうのも、楽しいかも知れないが」 [エト/085]「う、それはやだな……うーん、やっぱり徒歩が一番だよ」 [ユーリィ/094]「だからなぁ……」 [ナレ/047]「楽しい会話が続く中、ロープウェーは降りていく。見上げ街の外れへと……」